福祉施設がまちのインフラになる。 障がいのある方が働く本屋「ててたりと」

埼玉県川口市にある書店「ててたりと」は、静かな住宅地にあるちいさな本屋さん。
「就労継続支援B型事業所」と呼ばれる、働く機会を提供する福祉事業所でもあり、本の仕入れ、陳列、接客、なんと営業まで、そのすべてを障がいのある方が行っています。ㅤㅤㅤ

「福祉事業所というとクッキーづくりなどがよく知られていますが、ここではかわりに新刊を売っています。B型事業所としては日本ではじめてではないでしょうか」と代表の竹内一起さん。ㅤㅤㅤ

珍しい事業内容のため、支援機関はもちろん、利用者の方から直接問い合せが多く、市外から通ってくる方も。
身体障害・知的障害・精神障害の方すべてを受け入れておられます。ㅤㅤㅤ

ストーブでほんわりとあたたかなお店の入り口には「鬼滅の刃」の最新刊が積み上げられていました。
コロナ期間は本の需要が増えて、売り上げも伸び、小学生がわざわざ漫画を注文して、学校帰りに買うんだとか。ㅤㅤㅤ

すべて新刊で、雑誌も多数あり「これは明らかに…スタッフの方のこだわりや趣味なんだろうな」とじわじわ来るラインナップ。
店頭の手描きポップもいい味だしています。 ㅤㅤㅤ

近隣の町の本屋さんが数年前に閉じてしまったために、遠くまで行かなくてはならなくなっていたそうで、「地域の方々に”助かる”と喜んでもらえるのが、すごくうれしいですね。地域に必要とされる事業所でありたいと思ってきましたから」 ㅤㅤㅤ

もよりの歯医者さんや床屋さんから、雑誌の定期購読を請け負い、配達も営業も、利用者さんが担当していいます。なんと飛び込みで営業もされるとか。
飛び込んだ先もだいたい好意的で「どうせ買うならあなたのところがいい」と契約する企業も増えてきています。 ㅤㅤㅤ

竹内さんを含め、誰一人本屋の経験がないまま立ち上げたので、返品の方法すらわからず、苦労もあったといいますが、手探りでやってきたからこそ、効率だけではないお店の経営をしたいとおっしゃいます。 ㅤㅤㅤ

「効率化しすぎると仕事がなくなりますので。うちは作業を提供する場所なので、利用者さん自身が考えて、本を整えたり、掃除をしたり、提案してもらうことを大切にしています。お店にいらっしゃるお客さんと話したいスタッフも多く、店番は人気の仕事です。特に年配のお客様は楽しんでくださっているようです」 ㅤㅤㅤ

私が伺った昨年12月は感染症拡大を避けるために、利用者さんも交代で店頭に立っておられる状況でしたが、本の前で立ち止まるとすかさず、おすすめポイントを教えていただきました。ネットでばかり買い物をしているせいか、こういう経験がすくなくなっているので、とても新鮮に感じました。 ㅤㅤㅤ

「ててたりと」はしっかり働く人もいれば、居場所として通う利用者さんもおり、2倍働いたからと言って、報酬が2倍になるわけではない、というのが面白いところ。
「障がいのある人が働けるのがいい社会」ではなく「働きたい人が働ける社会」ではないか、と川内さんはおっしゃいます。
しかし社会に対して価値を発揮していく、という意識を強く持っていくために、あえてNPOではなく株式会社として経営をされています。  ㅤㅤㅤ

とはいえ、福祉事業所は万が一なくなったら「困る人」がたくさん出てくるので、経営はシビア。どうやったら存続できるか、そのためにどうやったら地域に貢献できるか、をいつも考えて工夫しておられるそうです。ㅤㅤㅤ

ちなみに、店名の「ててたりと」は、「とりたてて」を逆さ読みにすることで「特別ではない」けれど「特別である」両方の意味を込めてつけたんだとか。
福祉施設が地域で「当たり前の場所」であり「特別な本屋さん」であることに挑戦している姿に、静かに感動しました。
本屋さんがない地域も増えている中、福祉サービス事業としての可能性を感じます。 ㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

ててたりと http://tetetarito.com/
埼玉県川口市 上青木西5-25-17
月〜土: 9:45 – 17:00
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