再犯率が1/5に。対話によって「なぜ自分がここにいるか」が見えるようになる。ドキュメンタリー「プリズン・サークル」

映画「プリズン・サークル」の坂上香監督のお話を伺いました。
 
舞台は2008年に島根県にできた、官民共同運営の刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」。
そこで実施されているTC(セラピューティックコミュニティ)という更生プログラムで、4人の受刑者の方がどう変化していくかを2年にわたり追ったドキュメンタリー。
 
長い間日本の監獄法には更生の視点はなく、2005年に改正されるまで、刑務所は罪を犯した者が「罰を受ける場所」だった。しかし、島根あさひ社会復帰促進センターでは、詐欺や強盗、傷害致死といった犯罪で入所した受刑者たちが、他の受刑者や支援員との対話の中で自分がなぜ犯罪を起こしたかを探り、再生していくことを目指している。
TCは1960年代から米国を中心に広がり、参加者同士が影響を与えあい、新しい価値観を身につけることで、人間的な成長を促していくもの。

キーワードは「対話」。
私語は許されない刑務所にもかかわらず、TCの場だけは受刑者に、積極的に対話することを促す。結果、自分の本当の姿や苦しみと向きあうことを避けてきた受刑者たちの心が少しずつほぐれていき、「なぜ自分がここにいるのか」が見えるようになっていく。

登場人物の4人とも、非常に苦しい子供時代を過ごされています。加害者であり被害者である、暴力の世代間連鎖を学説にしたアリス・ミラーと、坂上監督が交流があったというのも驚きです。

日本の刑務所は沈黙という暴力の場であると坂上監督は言います。私自身も日々、同調圧力や権力への忖度から、沈黙を強いられている気がしています。刑務所は社会を映す鏡であり、これは特別な誰かの物語ではなく、私たち自身のこともである。
 
4万人の受刑者に対しプログラムを受けられるのが全国でわずか40人、という現実ですが、再犯率が1/5になるというレポートもあり、今後が非常に期待されます。この映画は法務省が教材に無料で使えるという条件で撮影を許可されたということからも、更生に力を入れる針はすすんでいくものと思われます。
 
どこからも企画書すら受け取ってもらえず許可を取るまでに6年かかった(刑務所にカメラが入るのは映画としては日本初)、撮影を口外できなかったのでほぼ自己資金のみで厳しい状況があったといい、「なぜそこまでできたのか」という疑問は、坂上監督のバックグラウンドと作品作りのテーマ(トラウマを負った後どう生きていくのか?)を伺えて納得しました。
 
圧倒されました。見ることができて本当によかった。
主催(ワーカーズコープ九州沖縄事業本部の山口さん)はよく、このコロナや台風の状況下、上映の判断をされたと感動しましたが、「どうしてもまた上映したい、自分がしなくてはならない」という強い思いを見た人にもたせる、素晴らしい映画でした。
 
彼らは刑務所でTCに出会えた、しかし社会に戻ると安全な対話の場がなかった、という坂上監督の言葉をきき、
私は中断していた絵本を使ったケアワーカーの対話の場をまた、はじめようと思いました。
受刑者の方にかぎらず、だれにとっても「対話の場」がたくさんあって、選べることが救いになると考えています。

プリズン・サークル 予告編
https://youtu.be/XQA-0ElxMkU